「象やの粂さん」(長谷川如是閑)

象屋の設定は明治の格差社会への風刺か

「象やの粂さん」(長谷川如是閑)
(「日本文学100年の名作第1巻」)
 新潮文庫

「日本文学100年の名作第1巻」

「象やの粂さん」(長谷川如是閑)
(「ふたすじ道・馬」)岩波文庫

「ふたすじ道・馬」岩波文庫

象やの粂さんは、
今では像の玩具の
露店売りをしているが、
かつては見世物小屋の
象の世話をしながら
いろいろな芸を仕込んでは、
象とともに旅をしていた。
そんな粂さんのもとに、
大金持ちの所有する
象の世話係の話が舞い込む…。

明治・大正期に象を売る
象屋さんがあったのか?と
タイトルでまず驚きました。
象そのものではなく、玩具です。
大小さまざまな玩具の象を並べ、
露店で売りさばくのです。
売れるはずがありません。
その日の食物にも困る始末なのです。
ではなぜ粂さんはそんな商売を?
象が好きだからです。

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粂さんは金持ちが買い入れた
象のゴルさんの世話係を引き受けます。
給金がいいからではなく、
再び象と一緒にいられるからです。
しかし彼は、
やがて疑問を感じ始めます。

かつて自分は象とともに君臨していた。
でも今は象のゴルさんも自分も
金持ちの息子のペットに
成り下がっている。
これでいいのだろうかと。

全編にユーモアが満載されています。
江戸っ子らしい粂さんの言動、
金持ちに雇われてからの心境の変化、
象の扱い、そして粂さんの娘が
金持ち宅へ奉公にあがる話の顛末。
明治の生まれでありながら、
鷗外漱石といった知識人とは
一味も二味も
ちがった味わいの作品です。
市井に生きる庶民の心意気が
見事に書き表されていて、
現代でも十分に楽しめます。

しかし、よく読むと、
そこここに明治の社会への
批判的な文言がちりばめられています。
自分の世話している
象のゴルさんの境遇を憐れみ、
「あんな小さな餓鬼に玩具にされて、
 おんぶしたり、御辞儀をしたり、
 意気地がねえんだ。
 そうしなければ
 飯を喰わされねえから
 仕方がねえや。」

それはまさに人間である自身も同じで、
食うためには
誇りを捨てなければならない現状を
嘆いているかのようです。

また、一つ五十銭の象のおもちゃを
買えない貧乏人があまたいる一方で、
本物の象を買い与えられる
華族の息子もいる。
象屋を設定したのは、
まさにその明治における格差社会を
風刺したもののように
思えてなりません。

作者・長谷川如是閑は実は
ジャーナリストでした。
とりわけファシズム批判の
急先鋒として活躍した人物であり、
その論陣は
熱く激しいものだったようです。
でも、小説家としては
その熱情を上手に包みこんで
ユーモラスを前面に出しています。
やや異質な大正期の文学作品。
夏の読書にいかがでしょうか。

〔「日本文学100年の名作第1巻〕
1915|父親 荒畑寒村
1916|寒山拾得 森鷗外
1918|指紋 佐藤春夫
1918|小さな王国 谷崎潤一郎
1919|ある職工の手記 宮地嘉六
1921|妙な話 芥川龍之介
1921| 内田百閒
1921|象やの粂さん 長谷川如是閑
1922|夢見る部屋 宇野浩二
1923|黄漠奇聞 稲垣足穂
1923|二銭銅貨 江戸川乱歩

〔「ふたすじ道・馬 他三篇」〕
ふたすじ道
お猿の番人になるまで

象やの粂さん
叔母さん

(2020.7.14)

KotaroBlogによるPixabayからの画像

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